[対談vol.4]赤井孝美×樋口真嗣『米子で2人語り』

対談動画

前編

対談

樋口真嗣(ひぐちしんじ)

鳥取県米子市で開催された第十次米子映画事変の前日の収録。旧知の仲である二人が何を話すのか注目です。

赤井理解しているということと、行動様式が嚙み合ってないというか、データというものは理解していると。理解していても、物体に対する信頼?

樋口写したら劣化するんじゃないかっていうか、コピーするというところまでは解るんだけど、コピーしたデータが劣化するんじゃないかっていう不安感とかって…アナログの時代ですよね。データであるってことは解っているんだけど、「劣化はしないと思いますよ」…と、本当にそれは言い切れるのか、みたいな。

赤井僕らって、最初はアナログで入っているけど、比較的若い時にデジタルがあったから、「やった、劣化しないんだ、いくらコピーしても同じなんだ」って、封印のように捉えて、それは受け入れられたんだけど。もっと僕らより一回り、二回り上の人達は、頭では分かっていても、最初に撮ったコレの尊さみたいな。

樋口それは何となく分かりますね。分かるんだけど、でも間違ってるな、っていうか…今ではもうSDカードとかも二束三文じゃないですか。だったらいいかなとも思いますけど、昔とか結構高かったですよね、それをこんなにいっぱい、っていう。

赤井あと何か信仰のようなものというか、そういうものを疎かにしては映像の神様の罰が当たる的な?(笑)

樋口でも結構データが飛んだりするんですよね。

赤井する、する。
DATって流行ったじゃないですか。あの頃よく音声のデータの受け渡しがDATで。だからよく音響さんが、DATはデータがドロップアウトするから怖いんだなんて言ってましたよね。

樋口そんなこと言ったらね、全てが不安の塊ですよ。ハードディスクはどうなるとかね。

赤井データはどうしてます?結構手元で作業しているわけでしょ。

樋口クラウドが最近は多いですよね。ただクラウドにすると1TB、2TBなんですよね。僕はもう2TBほしいんですよ。段々そのバックアップ地獄みたいになって。「このバックアップが飛んだらどうするんだ」みたいになって、バックアップのバックアップを取っておくみたいな。

赤井ははは(笑)

樋口どっちかが飛ぶということはあっても、どちらもが飛ぶということはないだろうなと、バックアップのバックアップを取ってる時期が10年くらいあったんですけど。そしたらなんかあんまりハードディスクのデータが飛んだっていう経験がなかったんですよ、この何十年。それがここのところ続いたんですよ。

赤井ほう。

樋口たまたまコピーした先が飛んじゃったんで、元の動画はあったからそこに出直せばよかったんですけど、やっぱりコピーするのに時間がかかったりしますし。やっぱり飛んじゃったという事実で不安感が支配するようになって。
Appleコンピュータがやっているicloudが比較的便利で。便利ですけど、月々1300円で2TBなんで。不安に駆られてバックアップを取るためのハードディスクを選んでいるくらいだったらそれでいいか、と思ってやっていたんですけど。やっぱり足りないんですよね、2TBって。

赤井2TBって意外とすぐですよね。

樋口しかも最近iPhoneの写真のデータがどんどん重たくなってきて。それを全部馬鹿正直に移しちゃってるんで、そこがどんどん広がっていって。まあ消せばいいんでしょうけど。消すとあれって、よく分からないですけど他のストレージだと全部消えちゃうんで。

赤井ほーう。

樋口全部同じにするっていうのを忠実に遂行しているっていう。全部同じであることが全て、みたいになっているので。じゃあ消える前にどっかにストレージを作らなくちゃ、とどんどん訳の分からないことになって。

赤井で、しばらくすると構造を忘れちゃったりね(笑)
樋口そうそう。だから忘れるってことはいらないってことなんですよ。

赤井なるほど。

樋口我々そろそろ人生の終わりに向けて、ね。

赤井データ断捨離みたいな。

樋口あの、ハードディスクレコーダーってあるじゃないですか。番組を録画するのに、昔はVHSとかベータとかだったけど、今や全部データでね。それでハードディスクから、ブルーレイとかに焼けてどこでも高画質で観られるっていう最高の時代ですよ。

それで言うと配信とかもいつ無くなるか分からなくて信用できないんで、今は手元にいつでも見れるようにしときたいんですよね。で、取っとくわけですよ。そしたら馬鹿みたいにハードディスクが溜まっていって。これそろそろ溢れそうだから消さなきゃって。コピーしたやつはどんどん消えていくんですよ、一回しかコピーできないんで。

赤井はいはい。

樋口どんどん鬼のようにそれが溜まっていくんですよ。圧迫していくんですよね。消そうかな、どれを消そうと考えたときに、消す瞬間に、「あ、これ一生観ないんだ」って気づくわけですよ。

赤井あぁ。

樋口そこで初めて自分の人生の終わりが…リモコン持ちながら、俺っていつか死ぬんだって思う。なんか百恵・友和の『風立ちぬ』とか、「見ねえな、これ」って。見ないじゃないですか、多分。

赤井見ない。

樋口見ないって思った瞬間に、自分の一生って今消そうとしているこの映画とは縁がないまま終わるんだ、まあ自分が決めたことだからいいんですけど。そう思ったら猛然と寂しくなる。

赤井まあでも、人生の終わりという例えではあるけど、大人になるってそういうことだよね。人生の終わりに近づいて初めて分かる”大人になる”(笑)全てを掴むことはできないから、取捨選択。大人は決めなきゃいけない。

樋口あと、最近友達が死んじゃって、遺品の整理とかあるじゃないですか。その時にパッケージのビデオとかブルーレイとかDVDとかは、形見分けで貰えるんですけど、なんか自分で録画したやつで、手書きでラベルに書いてあるようなやつ。なんか再生するのにすごく勇気がいるわけですよ。

赤井勇気がいる。面倒くさいとかじゃなくて?

樋口じゃない。なんか、映ったらどうしよう、みたいな。「死んだあいつが…!」みたいな。

赤井おお、なるほど。

樋口だってものすごい残留思念の塊みたいじゃないですか。別に貞子とかそういう話じゃないですよ。彼が好きなものをそこに残してあるんだから、きっとこれは彼と繋がる何かなんじゃないかとか。ちょっとなんか面倒くさいな…面倒くさいって嫌いだとかそういうことじゃなく、そういう関わり合いというのは自分の中でどうかな、っていう。

赤井まあ踏み込めないところに入るというか、ATフィールド内みたいな。

樋口ええ。
で、皆しょうがないな、って、それだけ溜め込んだDVD-Rとかを焼いたやつは、全部ゴミ箱。そうなった時にですよ、自分が今溜め込んでいるやつ、観るだろうか。観ないな、多分。これを観て一生を終えるということは多分ないんじゃないかと思う。

どうしよう、こんなに世の中に映像というものが溢れている中、保留してどんどん焼いていって溜まっているだけ…でも観ないし…。そこで最近思ったのが、観る前にあげよう、って。「君これ観たことないんだったら観た方がいいよ」って、布教ですよ。

赤井自分が観てないのに(笑)

樋口観てない、もしくはいつでも観れるように取っておいてあるやつを、観たい奴に押し付けるっていう。死んだ奴だったらちょっと薄気味悪いかもしれないけど、死ぬ前ならちょっとパワハラ的ですけど、渡せるわけで。

赤井むしろ死んだ後に、これ樋口監督からもらった映画だ、と思って見たらふっと樋口監督が現れたら、むしろ美味しいような…(笑)「わっ監督、ここに生きてらっしゃったんですね!」みたいな(笑)

樋口”ここから出るには一つ方法がある、君の命をくれ…”みたいな(笑)

赤井それで順繰りにね、外に出るために別の若い者の命を…。

樋口ありがちですね(笑)

赤井ハードディスクレコーダーの中身の話から随分話を引っ張ったわけだけど、なんか若い頃から、その都度、僕らみたいな仕事って、すごい子供の頃からやりたいことに向かって、夢を叶えたみたいな文脈で捉えられがちだけど。

樋口ありますね、違うのになとは思いますよね。

赤井でも違うのにと思う反面、これをどう説明したらいいのかよく分かんなくて。割と場当たり的ですよね。さっきのハードディスクのやつを溜めている話と近いものがあるのかも。これも見られるんじゃないかと保留していくうちに、締め切りが来たものだけを観ている、みたいな。

樋口そうですね、夏休みの宿題を8月31日にやるタイプとしては。

赤井仕事もね、怒られる順番にやるとかね(笑)
樋口:怒られないようにやる。保身です。
こういう映画の仕事とかしていると、皆”8月31日派”じゃないですか。

赤井”8月31日派”、はい(笑)

樋口それがね、”7月24日派”がいたんですよ。夏休み入ったらすぐやる。金子修介さんがそういうタイプだったの。

赤井へえ。

樋口作る映画観たら、なるほどこの人は宿題全部最初にやるタイプだわってね。カチッとしているんですよね。

赤井なるほどね。次金子さんの映画観るときはそういう色眼鏡をかけて観よう。

樋口最新作『信虎』ですけどね、武田信虎の話をやっていて。黒澤明『影武者』における、志村喬ですよ。海外版になるとほとんど出番がカットされちゃってる。

赤井あれ志村喬でしたっけ。ロングショットばっかりなんで、分かんない(笑)

樋口あれの志村喬か、『乱』の宮崎美子かってくらい。「出てるんだっけ」って。

赤井影武者は観たし、信虎のシーンって覚えているけど、志村喬だったってこと、今初めて知りました(笑)また、メイクも濃いじゃない。あんな特徴のある顔なのに。驚いた。

樋口あれはけっこう面白い映画でしたね。

赤井信虎って目の付け所がね。ずっと貧乏くじというか、世の中的には武田信玄の引き立て役っていう…。

樋口それを、寺田農さんがやっているんですよ。80歳近くにして久々の主演作っていう。寺田さんのお芝居も面白い。

赤井謎が多い人なんですよね、信虎って。いくら何でもそんなボロカスに残酷な酷いことを、信玄褒めるためだけにやってるみたいな。

樋口大体そういう役割ですよね。

赤井今歴史のニューヒーローを探す活動って結構あるじゃないですか。例えば信虎も、武田信玄周りが好きな人は皆が知っているけれども。

樋口主人公にするにはまたちょっとね、着眼点の面白さではあるけど。

赤井そういう人をまた違う視点で見るみたいな。ゆうきまさみさんの漫画で『新九郎、奔る』ってありますよね。

樋口ええ。読んでいますよ。

赤井北条早雲は有名だけれど、それの少年時代である伊勢新九郎の頃をずっと描くとか、あんなに細川勝元とか山名宗全がじっくり出てくるのも。あと、ジャンプで『逃げ上手の若君』って。

樋口はい。はい。

赤井中先代の乱の北条時行?知らないでしょ(笑)

樋口しかもあの時代、本当に資料ないですからね。

赤井書いたもん勝ちみたいな。

樋口いや資料無いのによくやるな。大変な時代ですよ。

赤井一時やっぱり信長・秀吉のヘビーローテーションで、時々坂本龍馬とか、ちょっと口直しに伊達政宗、みたいなところじゃないですか。あと真田ですかね。だけど、ああいう北条時行もだし、今度の大河の三谷さんの北条義時も、おそらく多分相当歴史が好きな人じゃないと。

樋口あれはまぁ、三谷幸喜さんがやるっていうので。日本でかなり稀有な、オリジナルのフリーハンドで企画が通る人なんですよ。

赤井そうだと思いますよ。それもあって、渋沢栄一だ、北条義時だ、ってちょっと耐えられなくなって、家康にしませんか、みたいな(笑)歴史の新しいヒーローみたいなものを求めてる動きっていうのは、最近顕著だなと。

樋口おそらく今後そうでしょうけど、「オラが町を大河に」という動きは色んな所にあって。一番すごいのは、熊本城行くと、横に神社があるわけですよ。そこにぜひ清正公を大河ドラマに、って。いやそれは絶対無理、それは無理(笑)やりたい気持ちは分かるが…。

赤井清正で大河ドラマは無理ですかね?

樋口どこまでアレンジするかじゃないですかね。

赤井確かにドラマとして終わらないっていうか、何某かその豊臣家の滅亡が家康の天下取りに対して思うことがあっただろうが、突然退場しちゃうっていうのが、ドラマとしてちょっと厳しいのかな。

樋口そうなんですよ。ネットで流れると、「ないでごわす」「ばってん」って左門豊作やって失敗しますよ(笑)熊本の人が皆左門豊作だっていうのも良くないらしい。

赤井違うらしいですね。「~ですたい」なんて誰も言わない(笑)
随分昔、まだ渡辺謙さんが若い頃、信長のスペシャルドラマをやっていて、これは明るく豪快な信長像を貫くために、本能寺まで行かないんですね。都に上って終わりなんですよ。

樋口いいところだね。

赤井清正もそういう手はあるんだよね、良い所で終わって、あとはナレーションで。

樋口伏見の方ばっかりやるとかね。

赤井伏見ね!どうしても加藤清正っていうと虎退治とか石田三成に対する武断派っていうのが結構あるじゃないですか。でもどちらかと言うと役人みたいな人で。

城を作る話。それいいかも。熊本城が崩れた時に、結構熊本城の石垣がよく残っていて。見ると、でこぼこと出たり入ったりしていることで崩壊が止まる訳なんですよ。お城の専門家は、あれは防御のために出っ張っているんだと言うけれども、僕はあれ地震のリスクヘッジのためにも出っ張っていると思うんだよね。

加藤清正って若い頃、慶弔伏見地震を経験していて、神様のように尊敬する秀吉が作った城が、ほとんどボロボロに崩れて。その後城作りのスペシャリストになった加藤清正が、地震対策してないはずがないんですよ。地震だとどうしても崩れるから、崩れてもここで止まる構造として作ってるんではないかとね。こういうことを大河ドラマでやってみると面白いかもしれない。

樋口いいんですか、敵に塩を送るようなそんな…。

赤井いやいや、全然敵じゃないですから。

僕はまだ本当に個人的な活動なのですが、吉川広家という人をね。大河ドラマにしようという訳では無いのですが、そう言った方が、色々な人が話に乗っかりやすいかなと思うのでね。そういう意味では、吉川広家的には、加藤清正の株が上がった方がいいんですよ。
樋口なるほど。

赤井加藤清正を助けているので。

樋口でも本当、誘致活動って実際あるらしいので。商工会議所が動くらしいですよ。

赤井鳥取県でもあったんですよ、大河ドラマを誘致するコンテストみたいなの。そこで山陰の歴史上の人物が出されたんだけど、一回選ばれたのが、それだけは無理でしょうという人なんですよ。それがどう無理かと言うと、お坊さんなんですよ。今まで大河ドラマで宗教人が主人公になったことはないんです。NHK的に、スペシャルドラマで空海とかを親鸞とかやるのは良いけど、一年間お坊さんやる訳にもいかないんでしょう。

樋口そうだね。

赤井そういうテレビの企画とかが分かる人が参加してなかったということで…。じゃあ誰、と思ったときに、吉川広家を思いついたんですよ。何が良いかって、ローカルの人って大抵ローカルにしか絡んでいないんですよ。実際大河ドラマにもなった毛利元就なんか、ドローカルなわけですよ。

樋口でもまあ何とかなった。

赤井何とかやったけど。でも、例えば関東地方の人たちって、毛利元就なんてどうでもいいわけですよ。せめて家康に絡むとか、信長に絡むとかあれば全国の人に関係があるけど、毛利元就って本当に西日本にしか関わってないんですよ。

樋口確かにローカル…でもそもそもね、戦国時代って西日本みたいなもんでしょう。ああやって見ると、西日本って九州含めて、土地が無かったんですよ。領土争いと言ったら、それ以上大きな土地を増やそうと思ったら、東に行くしかなかったということなのかなと思いますね。

対談後編は赤井孝美百貨店の有料会員限定で公開!是非ご入会ください。

樋口真嗣

ヒグチ シンジ

1965年生。特撮、アニメ、実写と幅広く活躍する映画監督。
「ゴジラ」(1984年)に造形助手として参加したのち、DAICON FILMの「八岐之大蛇の逆襲」(1984年)に特殊技術として、GAINAXの第1作目「王立宇宙軍 オネアミスの翼」(1987年)に助監督として参加。
その後GAINAXのアニメ制作を経て、特技監督を務めた「ガメラ 大怪獣空中決戦」(1995年)で日本アカデミー賞特別賞特殊技術賞を受賞。実写映画「ローレライ」(2005年)で監督デビュー。犬童一心監督と共同監督の「のぼうの城」(2012年)では日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した。その他の代表作に、「日本沈没」(2006年)、「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」(2008年)、「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」(2015年)、「シン・ゴジラ」(2016年)など。現在、2022年公開予定の「シン・ウルトラマン」を控えている。

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